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【図解&テンプレ付き】新製品の価格を決める、PSM分析のやり方完全ガイド

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「価格設定、どうやって決めればいい?」
新規事業やプロダクト開発において、多くの人が最初につまずくのが“値付け”です。

原価や利益率から逆算した価格では、「高すぎる」と言われ、ユーザーに受け入れられないことも。

そんなときに役立つのがPSM分析(Price Sensitivity Measurement)です。

本記事では、PSM分析の基本から、Excel・Googleスプレッドシートを使った具体的なやり方、分析用テンプレートの活用方法までを図解でわかりやすく解説します。

PSM分析とは

PSM分析(Price Sensitivity Measurement)とは、製品やサービスの金額についてユーザーが「高すぎる」「適正だ」「安すぎて不安」などと感じる価格帯を調査し、最適な販売価格を導き出すための分析手法です。

  • いくらから「高すぎて買えない」と思うか
  • いくらから「高い」と思い始めるか
  • いくらから「安くてお得」と思い始めるか
  • いくらから「安すぎて不安」と思うか

という、4つのシンプルな質問をユーザーに問い、ユーザーの価格に対する心理的な許容範囲を可視化します。

どれだけ魅力的なプロダクトであっても、ユーザーが「価格が高すぎる」と判断すれば売れません。逆に安すぎると安全性や信頼を損なうこともあります。

PSM分析を使えば、思い込みや希望的観測ではなく、データに基づいて「ユーザーが本当に買いたい価格帯」を把握できます。

新規ビジネスで価格戦略が重要な理由

価格は、単なる金額ではなく「その製品がどんな価値を持つのか」をユーザーに伝えるメッセージでもあります。

たとえば、高級スキンケアブランドの製品が1本500円だったら、効果がなさそうに感じられ、かえって敬遠される可能性があります。反対に、シンプルな日用品が1万円だったら「なぜそんなに高いのか」と疑念を抱かれるでしょう。

特に新規事業では、商品やサービスの価値がまだ市場に浸透していないため、価格がその第一印象を大きく左右します。

だからこそ、ユーザー視点での価格設定が不可欠なのです。

従来の価格調査法とPSM分析の違い

価格設定でよく使われる代表的な手法に「CVM(Contingent Valuation Method)分析」があります。

CVM分析とPSM分析を比較した表が以下です。

項目 CVM分析 PSM分析
質問形式 「いくらで買いますか?」など直接的な設問 「この価格は高すぎる/安すぎる」など心理的な設問
主な目的 支払意思額(WTP)を明確に把握する 価格に対する受容範囲を把握する
回答者の意識 実取引を想定しやすい 仮想的な価格評価を行う
得られる情報のタイプ 単一の価格に集約されやすい 価格帯としての範囲が得られる
データの安定性 主観的な揺れが大きいこともある 比較的安定して傾向が出やすい

CVM分析のように「いくらなら買うか」と直接聞くと、回答者は無意識に「安く買いたい」という立場で答えるため、実態よりも価格が低く出やすくなります。

一方PSM分析では、「高すぎる」「安すぎて不安」などの心理的な境界線を問うため、ユーザーの本音をより客観的に捉えやすく、現実的な価格設定に役立ちます。

【テンプレート】Excel・Googleスプレッドシートを活用したPSM分析のやり方

ここではデータ分析の初心者でも取り組めるように、Excel・Googleスプレッドシートを活用したPSM分析の具体的なやり方を解説します。

Googleスプレッドシートのテンプレートもありますので、PSM分析を行う際にコピーして活用してください。

【norosi press】PSM分析集計テンプレート

1.ユーザー調査でデータを集める

まずは、分析する商品・サービスについて、ターゲットユーザーに4つの質問を行います。

・どの価格から「高すぎて買えない」と感じますか?
・どの価格から「高い」と感じ始めますか?
・どの価格から「安い」と感じ始めますか?
・どの価格から「安すぎて不安だから買わない」と感じますか?

この4つをGoogleフォームなどで収集し、Excelで扱える形式にまとめておきましょう。最低でも30人分のデータがあると分析に信頼性が出ます。

2.Excel・Googleスプレッドシートでグラフを作成する

以下の手順でグラフを作成しましょう。

①データの整形

4つの質問ごとに、回答データを縦一列で整理し、シートの名前を「回答データ」とします。

②度数分布表を作成

「回答データ」とは別に、各価格帯ごとの人数をカウントする度数分布の表を作成し、シート名を「度数分布」とします。

表の上部(1行目)に書かれる金額は、調査で得られたユーザーの回答に合わせて適宜書き換えてください。今回は下記のデータ区分を用意しました。

  • 1,000円を最低基準
  • 10,000円を最高基準
  • 区間は500円刻み

③COUNTIF関数を用いて度数分布を集計

次に、各項目に関数を入力し、各価格の累積比率(ある値以上/以下を選んだ人数の合計比率)を算出します。

【norosi press】PSM分析集計テンプレートを使えば、「回答データ:テンプレート」のシートに調査結果の数値を入力することで、「度数分布:テンプレート」に度数分布が自動で集計されます。

累積比率は、以下の計算式で求められます。

累積比率 = ◯円以上(あるいは以下)と回答した人の数 ÷ 全回答者数

ExcelやGoogleスプレッドシートでは、「◯円以上(あるいは以下)と回答した人の数 」を【COUNTIF】(カウント・イフ)関数で求めることができます。

COUNTIF関数は、引数[範囲]に指定したセル範囲で[検索条件]に一致するデータの数を求める関数です。

=COUNTIF([範囲], [検索条件])
(1)高いと思い始める人の累積比率

たとえば、上記の表から「1,000円以上から”高い”と思い始める」と回答した人の累積比率を数えたい場合、下記のようにCOUNTIF関数を設定します。

=COUNTIF(‘回答データ’!B:B,”<=”&B1)/COUNT(‘回答データ’!B:B)

(2)安いと思い始める金額の累積比率

「1,000円以下から”安い”と思い始める」と回答した人の累積比率を数えたい場合、下記のようにCOUNTIF関数を設定します。

=COUNTIF(‘回答データ’!C:C,”<=”&B1)/COUNT(‘回答データ’!C:C)

(3)高すぎて買えない金額の累積比率

「1,000円以上から高すぎて買えない」と回答した人の累積比率を数えたい場合、下記のようにCOUNTIF関数を設定します。

=COUNTIF(‘回答データ’!D:D,”<=”&B1)/COUNT(‘回答データ’!D:D)

(4)安すぎて買わない金額の累積比率

「1,000円以下から安すぎて買わない」と回答した人の累積比率を数えたい場合、下記のようにCOUNTIF関数を設定します。

=COUNTIF(‘回答データ’!E:E,”<=”&B1)/COUNT(‘回答データ’!E:E)


これで度数分布の表の集計は終わりです。最後に、度数分布の表をすべて範囲指定し、折れ線グラフを作成します。

3.グラフを作成し、交点の価格を把握する

PSMグラフでは、線が交差する4つの価格(価格帯)は、それぞれ重要な意味を持ちます。

上限価格(最高価格)|「高すぎて買えない」価格

「この価格以上なら買わない」と判断される価格です。

一般的にキャベツを800円で売ろうとすると、いくら品質にこだわっていても敬遠される可能性が高くなります。

ただし、競合がいなかったり、ブランド価値があったりする場合は、あえてこの価格を狙うことも選択肢です。

妥協価格|「買っても良い」と妥協する価格

「本当はもう少し安いと嬉しいが、これなら買ってもいい」とユーザーが妥協できる価格です。

たとえば傘が1本1,000円だった場合、コンビニで販売しているビニール傘より高いものの、大半の人が納得感を持って購入するでしょう。

コストと利益のバランスがとれた価格がこのあたりになります。

理想価格(最適価格)|「ちょうどいい」価格

ユーザーが「ちょうどいい」と感じる価格です。心理的抵抗が最も少なく、購買されやすい価格帯です。

ただし、企業側の利益が薄くなることもあるため、実際の価格設定ではバランスを取る必要があります。

下限価格(最低品質保証価格)|「安すぎて不安」な価格

これ以上安いと「この商品、大丈夫?」と不安を感じさせてしまうラインです。特に、電子機器や化粧品などが下限価格を下回ると、安全性や信頼性が疑われます。

ブランド価値を維持したい場合には、この価格を下回らないよう注意が必要です。

4.許容可能価格帯の範囲内で価格を決める

PSM分析では、上限価格から下限価格の間にある範囲が許容可能価格帯(RAP=Range of Acceptable Prices)です。

そのうち、「妥協価格」と「理想価格」の間が、ユーザーの購買意欲を損なわず利益を確保する現実的なラインと言われています。

PSM分析のメリット

PSM分析を活用することで得られるメリットは下記です。

顧客をベースとした価格感を掴むことができる

価格設定を社内だけで決めると、「原価的にこの価格にしたい」「この利益率は確保したい」といった事業者目線が強く反映されがちです。

PSM分析で、実際のユーザーに対して価格感度を問うことで、客観的に「いくらまでならユーザーが受け入れてくれるか」を知ることができます。

通常のアンケートより信頼性が高い

「この商品が3,000円なら買いますか?」という単一の価格質問は、実際の購買行動とズレることが多いと指摘されています。

なぜなら、回答者は「今ここでお金を払う」わけではないため、気軽に「買う」と答えてしまうからです。

一方、PSM分析では「高すぎる」「安すぎて不安」など4つの質問を行うため、実際の購入価格とギャップが少なく、信頼性の高い分析が可能になります。

値引きやブランディングの際の価格の指標になる

PSM分析の適正価格は、「消費者がその商品にどれだけの価値を感じているか」の現れでもあります。

  • キャンペーンで価格を下げる際も「これ以上安いと不安」と思われるラインは避ける
  • ブランディングに投資してブランド力に高めたとしても、上限価格を越えた値段はつけない

など、PSM分析で得られる4つの価格帯を把握することで、値引きやブランド戦略を実施するときにも価格の基準が明確になります。

まとめ

本記事で紹介した手順やテンプレートを活用すれば、難しい分析ツールを使わずに、ExcelやスプレッドシートだけでPSM分析を実践できます。
価格設定に悩んだら、まずはユーザーに聞くことから始めましょう。

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