
ユーザーの“本音”を聞き出す調査の進め方|目的・質問方法・調査の活かし方も解説
ユーザー調査とは、サービスを作る際に自分だけの思い込みに頼らず、実際に使う人のリアルな声や潜在的なニーズを探るための重要な調査です。
ユーザーが抱える不満や希望、行動の背景にある本音を知ることで、サービスや商品はより多くの人に受け入れられるものになります。
この記事では、インタビュー調査を軸に、ユーザー調査を成功させるための進め方や聞き方のコツ、集めた情報の活かし方を紹介します。
ユーザー調査とは
ユーザー調査とは、実際にサービスを使う想定ユーザーが普段感じている不満や、潜在的なニーズを探る調査のこと。
新しいサービスを作ろうとすると、どうしても「自分ならこうする」「これがいいはずだ」という思い込みが入りがちです。
ユーザー調査を通じて、ユーザーのリアルな声や小さな悩みを知ることで、自分が元々考えていたアイデアを軌道修正し、世の中に本当に必要とされるアイデアに近づけることができます。
ユーザー調査は、作り手の想い(=プロダクトアウト)とユーザー目線(=マーケットイン)をつなげる大事な一歩なのです。
ユーザー調査の目的・メリット
ユーザー調査のゴールは、実際にサービスを使う人の生活や感情を解像度高く知ることです。ここではユーザー調査の具体的な目的・メリットを紹介します。
ユーザーの本音(インサイト)を知る
インサイトとは、「言葉にしにくいけれど、実はユーザーが感じていることや望んでいること」。
インサイトはアンケートやインターネット上の調査だけでは分からないため、インタビューによってユーザーの日常の様子を探る必要があります。
たとえばヘアケア製品を開発しているのであれば
- 髪を乾かす時間が苦痛
- 水道代を節約したい
など、サービス開発につながる意外なインサイトを見つけるのが大切です。こうしたユーザーの本音を知ることは、新しいアイデアやサービスのヒントになります。
作ったペルソナを検証する
ペルソナは「こんな人がサービスを使うだろう」と考えて作る理想のユーザー像です。
しかし、そのペルソナがユーザーの声を適切に反映しているかどうかは、実際のユーザーの声を聞いてみないとわかりません。
ユーザー調査を通して「思ったよりこういう点を気にしているんだ」「ここはあまり重要ではないんだ」といったズレに気づき、修正していくことで、より正確なユーザー像が見えてきます。
新規事業のユーザー調査はインタビューから始めるのがおすすめ
新規事業のユーザー調査は、まずインタビューから始めるのがおすすめです。
まだ市場が定まっていない新規事業では「何を聞くべきか」もまだ曖昧な状態。あらかじめ設定した質問しかできないアンケートでは、的外れな調査になってしまうことも多いでしょう。
また、アンケートの回答や数字のデータは「何を言っているか」「どう行動しているか」を知るのに適しています。
しかし、ユーザーのインサイトにつながる行動の背景を知るには、インタビューによってユーザーの声を直接聞くことが重要なのです。
インタビューの進め方
インタビュー調査は、ただ話を聞くのではなく「ユーザーの本音を深く理解する」ための段取りが重要です。
準備から実施、振り返りまでの流れを順に押さえることで、表面的な感想だけでなく、ユーザーが本当に感じている課題やニーズを知ることができます。
ここでは、新規事業の最初期におけるインタビュー調査の進め方を紹介します。
目的の設定
まずは「なぜインタビューをするのか」を明確にしましょう。目的がはっきりしないと、話があちこちに飛び、肝心の情報が集まりません。
新規事業立ち上げのための調査であれば、
- ユーザーが〇〇において、満たしている/まだ満たされていないニーズを知りたい
- ユーザーが〇〇において、抱えている潜在的な課題を知りたい
といった目的を定めるのが一般的です。目的を決めることで、質問項目や対象者の選び方も自然と整理できます。
対象ユーザーの設定
誰に話を聞くかも、調査の成否を決める重要なポイントです。
toB向けサービスならそれらの課題を持つ会社の担当者に、toCなら商品を購入してくれそうな想定ターゲット層にユーザー調査を行うと良いでしょう。
toC向けの新規事業でターゲットが定まっていない場合は、自分の思い込みを崩すためにも年齢・性別・仕事など、複数の異なる属性の人たちに話を聞くのがおすすめです。
質問項目を用意する
限られた時間で有意義なインタビューを行うために、質問項目をいくつか用意しておきましょう。
ただし、あまりにもたくさんの質問を用意すると、質問リストを消化することがインタビューの目的になってしまい、本来の目的であるインサイトの深掘りがおろそかになってしまうことも。
「聞きたいテーマ」をいくつか設け、会話の流れでユーザーの答えに合わせて柔軟に質問を変えるとよいでしょう。
実際に調査する
実際の調査では、相手の話をしっかり聞くことに集中するのが大切です。あとでインタビューの振り返りができるように、相手に許可を取った上で会話を録音しましょう。
調査中はメモを取るのも良いですが、相手に安心して話してもらうためにも、「話しやすい雰囲気をつくる」よう心がけましょう。
調査結果をまとめる
インタビューによって情報を集めたら、情報をまとめます。聞き取りした情報の中でも、複数の人に共通する行動原理や、感情の動きに注目しましょう。
録音データを文字起こししたり、メモを見返したりしながら「この発言の裏にはどんな背景や気持ちがあるのか?」をチームで話し合うのがおすすめです。ここで得たインサイトが、新規事業を支えるアイデアの源泉になります。
ユーザーインタビューで押さえておきたい”聞き方”のポイント
インタビューを成功させるには、ただ質問をするだけではなく、答えの奥にある本質的な声を引き出す聞き方が重要です。
ここではユーザーのリアルな課題や価値観を引き出すために、どんな質問を投げ掛ければよいか、インタビューのポイントを紹介します。
「はい/いいえ」で終わらない質問をする
インタビューで「はい/いいえ」で答えられる質問をすると、そこから会話が広がらず、深い理解が得られません。
たとえば「普段どうやってこの作業をしていますか?」といったオープンクエスチョンで問いかけると、ユーザーの行動や考えをフラットに知ることができます。
そこから「それはなぜですか?」と背景を深掘りすることで、ユーザーの考え方や感じている課題が具体的に見えてきます。
5W1Hを使って質問する
5W1Hは情報を整理するためのフレームワークで、
- 誰が(Who)
- いつ(When)
- どこで(Where)
- 何を(What)
- なぜ(Why)
- どのように(How)
という6つの要素から成り立ちます。質問をする際は5W1Hの観点から深掘りすることで、ユーザーの行動や考えを立体的に捉えることができます。
調査前に準備する質問項目も5W1Hを意識し、会話の中でも足りない視点がないかを埋める形でインタビューしましょう。
誘導しない・仮説を先に語らない
「このサービス、試してみたいと思いますか?」「こんな悩みを持っていませんか?」のように、自分の考えを先に話すと、相手は「そうですね」と相槌を打つような回答になりがちです。
ユーザー理解を深めるためのインタビューの場合、直接自分のサービス・プロダクトの良し悪しや仮説を尋ねることは避けて、相手の普段の生活を引き出すことを重視しましょう。
「〇〇で最近困っていることはありますか?」とオープンクエスチョンで問いかけると、本音や小さな不満が自然に出やすくなります。
沈黙を恐れず、相づちを使って言葉を促す
質問に間があいたとき、焦って次の質問を連発すると、ユーザーのインサイトにつながる重要な言葉が埋もれてしまうことも。
沈黙は相手が深く考えているサイン。「なるほど、それで?」と穏やかに相づちを打つことで、相手は安心し、本音に近い話をしやすくなります。
よくあるヒアリング項目の例
ここではtoB向けサービス・toC向けサービスそれぞれについて、ユーザー調査でよく聞かれるヒアリング項目を紹介します。インタビューを実施する際の参考にしてください。
toB向けサービスのヒアリング項目
toBサービスのヒアリング項目を考える際は、まずユーザーの業務全体や組織内での役割を理解することを意識しましょう。
単に「困りごと」を探すだけではなく、業務フローや意思決定の流れを掘り下げる質問を用意すると、本質的な課題が見えやすくなります。
本人の業務・役割について |
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課題や不満 |
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情報収集・購入・利用の決め手 |
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toC向けサービスのヒアリング項目
toC向けサービスのヒアリング項目を考える際は、ユーザーの生活全体や価値観を立体的に捉えることを意識しましょう。
「なぜそう思うのか」「どんな背景があるのか」を引き出す質問を用意すると、本音や潜在ニーズが見えてきます。
基本情報・ライフスタイル |
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課題や不満 |
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情報収集・購入・利用の決め手 |
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ユーザー調査の活用法
ユーザー調査は「調べて終わり」ではなく、そこで得られたユーザーの声をどう新規事業に生かすかが大切です。
ユーザーの意見や感情をどのように事業に反映できるかを考え、次のアクションにつなげましょう。
ユーザー調査の結果をペルソナにまとめる
調査の結果をもとに、ペルソナを新たに作る、または既存のペルソナを修正しましょう。
インタビュー調査を行うことで、当初想定していたターゲットには刺さらないことが分かったり、思わぬ活用シーンが見つかったりすることもあるでしょう。
インタビューを経て作られた精度の高いペルソナは、ユーザー視点でサービス開発する際の強力な指針になります。
ユーザー調査結果を元に事業のアイデア出しを行う
調査の結果から見えたユーザーの声や課題をもとに、どんなサービスや商品を作るかを考えましょう。
例えば、ユーザーが「こうなったらいいのに」と感じているシーンを洗い出し、それを解決する手段を具体的に考えます。
ユーザーの感情や背景を理解した状態からアイデアを考えられるので、よりユーザーに受け入れられやすいものが生まれやすくなります。
ユーザー調査の注意点
ユーザー調査は、表面的な答えを鵜呑みにせず、ユーザーの本音を引き出すことが重要です。
ただし、何となく進めるだけでは、自分の思い込みを補強する調査結果しか得られない危険性があります。
ここでは、ユーザーの声を正しく理解するために、特に気をつけたい3つのポイントをまとめます。
普通に質問するだけではユーザーの”本音”は出てこない
ユーザーは「周囲からよく見られたい」「常識的に正しい人だと思われたい」という意識があるため、普通に質問するだけでは、本音を隠して答える傾向があります。
特に製品の欠点などネガティブな部分については、相手を気遣って遠慮することが多いです。
本音に近い答えを引き出すためには、「周りの人はどう言っていますか?」「実際に困ったことはありませんか?」など、第三者視点の質問や、具体的なシーンを思い出してもらう質問を使いましょう。
ユーザーは無意識の欲求を言語化できない
心理学では、人間の心理はしばしば海に浮かぶ氷山に例えられます。
海面上の目に見える部分を「意識」だとすると、その水面下には、それよりはるかに大きい「無意識」が存在しており、人間の行動や思考の大部分はこの無意識がコントロールしているという考え方です。
しかし、ユーザーは自分の「意識」の範囲でしか物事を見ていないことが多く、隠れた深い欲求や不満は言語化されません。
だからこそ、インタビューでは「なぜですか?」と繰り返し問いかけ、無意識に潜む行動の背景を引き出す工夫が必要です。
親しい友人ばかりに話を聞くことは避ける
「自分の親しい友人にユーザー調査する」というやり方は、一見手軽で安心感がありますが、ユーザー調査の失敗につながる危険性があります。
なぜなら親しい友人であるほど気を遣って「傷つけないような答え」を回答するため、ユーザーの本当の行動やニーズを知ることが難しいからです。
また、”自分と親しい”という共通点のもとで集められた人たちには、考え方や生活パターンの偏りが生まれやすく、友人の視点をユーザー全体の意見だと誤解してしまうリスクもあります。
ビジネス開発につながるデータを集めるためにも、幅広い視点からの声を集めましょう。
まとめ
ユーザー調査の目的は、思い込みだけでは見えないユーザーの「本音」や「潜在的な課題」に気づき、それを元にサービスを磨き上げることにあります。
インタビューを通じて、ユーザーの言葉を拾い上げ、その背景を深堀りすることで、自分1人では辿り着けなかった新しいアイデアやニーズに出会えるはずです。