自治体担当者に聞く 国家戦略特区・養父市で取り組む「スタートアップインレジデンス」とは?
兵庫県養父市では国家戦略特区としての利点を活かし、既存の法制度に縛られない新たなビジネスの検証を推進しています。今回は養父市 産業環境部商工観光課の片岡 智紘さんに、同市が都市部の起業家に対して提案する「養父市版スタートアップインレジデンス」の全体像と、養父市での国家戦略特区活用事例を聞きました。
プロフィール
片岡 智紘
養父市 産業環境部商工観光課
2000年に養父町役場に入庁。2004年養父郡4町合併により養父市職員。2019年より商工観光課に配属。「養父市版スタートアップインレジデンス推進事業」を展開するなど、スタートアップ企業等の誘致に取り組んでいる。
兵庫県内陸部にある国家戦略特区・養父(やぶ)市とは?
兵庫県養父市は人口約2万人、県の北部に位置し、西は県内最高峰である氷ノ山がある美しい自然が魅力の地域。
日本各地のブランド牛のルーツとも呼ばれる黒毛和牛「但馬牛」や、さわやかな香りが特徴の「朝倉山椒」などの特産品が知られており、豊かな自然を活かした農業やアウトドアスポーツが盛んです。
近年は「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を創出することを目的に創設された国家戦略特区に指定され、従来の法制度や規制にとらわれない新たなビジネスにも取り組みやすい地域となっています。
「規制緩和」と「行政との距離感」が魅力の実証実験フィールド
ーー養父市が企業誘致のために推進する「養父市版スタートアップインレジデンス事業」とはどんな取り組みですか?
片岡さん:「養父市版スタートアップインレジデンス事業」は令和3年度より課題解決型ワーケーション「養父市版ワーケーション推進事業」として取り組んでいたものを、この取組みと親和性の高いスタートアップ企業への関わりをさらに強化・発展させることを目指して、令和6年度より進めているものです。
いわゆる一般的なワーケーションとは、普段のオフィスを離れ、 観光地やリゾート地などで休暇を楽しみながら仕事をする働き方のこと。
しかし「地域の交流人口を増やす」という観点で見ると、どうしても一過性の取り組みになってしまうという課題がありました。
そこで養父市が提案しているのが、都市部の起業家の皆さんにこの地へ来てもらい、自治体や地域の事業者、住民を巻き込みながら新しいビジネスを開発してもらう課題解決型ワーケーションとしての「養父市版スタートアップインレジデンス」です。
少子高齢化に伴う労働者・後継者不足、空き家問題など、養父は日本の地方の多くの過疎地域が共通する課題がある地域。
それらの課題を解決し、広く日本の社会課題を解決するビジネスを立ち上げたいという起業家にとって、養父市はまたとない実証実験のフィールドになると思います。
ーー「ビジネスの実証実験フィールド」という観点から、養父市の魅力や強みを教えてもらえますか?
片岡さん:国家戦略特区の指定を受けており、規制緩和の実施に向けての国への提案を直接できる点です。
新しいビジネスを立ち上げる際に、法的な規制が障壁になることはスタートアップあるあるですよね。
そこで養父市では「地域を発展させるビジネスがしたいが、〇〇の規制があることによって円滑にビジネスの展開ができない」といった課題に対して、国にその規制の緩和を直接提案、まずは養父市限定で規制を緩和し、「そのビジネスモデルや技術を検証してみましょう」と働きかけていく仕組みがあります。
ーー養父では既存の法制度や規制にとらわれないビジネスにもチャレンジできるのですね。国家戦略特区の活用事例を教えてください。
片岡さん:従来の法律では「一般的な企業は農地を取得できない」という厳しい規制がありました。
しかし、この規制を緩和すれば新たな農業経営モデルが確立し、担い手不足や耕作放棄地の増加などの課題を抱える「農業」が活性化するきっかけになるかもしれません。
そこで養父では、一般企業でも市内の農地を取得・保有できるよう提案し、「法人農地取得事業」として規制が緩和され、市内外の企業がこの取組みに参加しました。
この取組みの成果により、2023年9月1日に「法人農地取得事業」は、構造改革特区制度に移行され、市内では2023年度末時点で8法人が農地を所有して農業ビジネスを行うとともに、全国の自治体でも同様の取り組みができるようになりました。
他にも、4月に一般ドライバーが自家用車を使って有料で乗客を運ぶ「ライドシェア」が限定的に解禁されましたが、養父市ではすでに2018年に地域の住民がドライバーとなり、自家用車で市民や観光客に移動サービスを提供するライドシェアと同等のサービス「やぶくる」展開しています。
公共交通機関による移動が困難で、かつ通常のタクシーもなかなか来ないエリアを中心に検証をしています。
こうした取り組みの中で、ビジネスを成立させるための問題点や改善策を検討し、全国展開への足がかりにしていただけると嬉しいですね。
ーー規制の枠を越えた取り組みを先駆けてできるのは魅力的ですね。これまでの話を聞いて「養父市で新しい取り組みをしたい」というスタートアップは、どんなアクションを取ればよいのでしょうか?
片岡さん:この「養父市版スタートアップインレジデンス事業」の運営はアドリブワークスへ委託しているため、まずはお問い合わせフォームよりアドリブワークスの養父市担当者へお声がけください。
ご連絡いただいた方には、養父市にある共創ワーキングスペース「triven Fab」などもご利用いただきながら、ご一緒に何ができるかを考え、地域内外の人々とお繋ぎます。
ーーずばり、どんなスタートアップに養父へ訪れてほしいですか?
片岡さん:正直な話、養父市に関心を持っていただける方であれば、どんな方でもウェルカムです(笑)。
都市部の方がスタートアップの数も多く、ビジネスを成長させるためのネットワークが集積していますが、会社として埋もれやすいというデメリットもあると思います。
その点で、養父はよい意味で「何もない」からこそ、来てくださった起業家の方の挑戦を全力でサポートしたいと考えています。そういった行政からのサポートのもとでビジネスに挑戦したい方にはマッチするはずです。
また養父市としては、ここに拠点を構えたり、養父市の事業者さんと一緒に新しい取り組みをしたりしていただければ、これほど嬉しいことはありません。
とはいえ、この記事を読んで「養父で何かやってみたいな」と思っていただけた人は、まずは気軽に声をかけてください。