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鯉料理の名亭「柏屋」から人々が集う場「triven Fab」へ。築100年の古民家に眠るストーリー

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2024年10月11日、兵庫県養父市にアドリブワークスが運営する共創ワーキングスペース「triven Fab」がオープンします。

この建物では、もともと「柏屋」という鯉料理の料亭 兼 旅館が営まれていました。triven Fabではこの柏屋をフルリノベーション、かつての日本風家屋の雰囲気を残しつつもモダンで心地の良い環境を整えています。

今回は子ども時代を柏屋で過ごしてきた元オーナーの方に、当時の賑わいや建物の思い出を伺いました。この建物が持つ歴史(ストーリー)を、ぜひお楽しみください。

牛市、そして鯉料理……養父の歴史とともに生きた「柏屋」が、100年の歴史を経て、新たな姿に。

青森県の五所川原にある、太宰治の生家をご存じでしょうか。今は「斜陽館」として観光名所になって公開されている、たいへん豪華なお屋敷です。この家は当時のお金で工事費約4万円をかけて造られたとか。

柏屋は、その斜陽館のような建物を目指して建てられたそうです。柏屋で生まれ育った、元オーナーさんにお話を伺いました。

「うちは豪商でもなんでもないのですが、お金をかけるところにはかけて、かなり頑張ったのだと思います。柏屋は私の父が子どもの頃、昭和8年(1933年)くらいに私の祖母が建てたと聞いています」

売却時の柏屋

当時、柏屋の裏には養父市場があり、そこで但馬牛の牛市(牛を売買する市)が開かれていました。昭和40年くらいまで、牛は農家の重要な働き手で、農家は牛を1棟は飼っていました。そこで生まれた仔牛を競りにかけて販売するのです。

近畿各地から市場に牛を買いに来る人が、柏屋に泊まっていました。買った牛を奥の納屋につないでおいて、翌日トラックに乗せて帰っていくのだそうです。

「柏屋はそうした方たちが泊まる旅館でした。市場は10月〜2月にかけて行われ、その時期は市場の周囲の民家が食事を提供したり、鯛焼きなどの露店も出ていたといいます。私が子どもの頃も人の行き来も多く、大変な賑わいでしたよ」

「日本三大和牛の素牛」とも言われる但馬牛。江戸時代から純血の血統を守り続けている

養父で牛市が始まったのは江戸時代のようですが、明治になるとグンゼ八鹿工場ができ、養蚕が盛んになりました。各家でサナギを飼って生糸を作っていたのです。

生糸は繭から作りますが、中のサナギは不要です。これを餌にして鯉を飼っていました。それが今度は商売になっていきます。

その後、第二次世界大戦が始まりました。養父には空襲などはなく無事だったようです。

「父は軍事工場に行っていたそうです。でも『長男だから帰れ』と言われて、畑仕事やら何やらをしていたら戦争が終わったと聞いています。終戦が近いことを大人は知っていたのかもしれません。

グンゼ八鹿工場も、戦時中は川西航空機の協力工場となり、紫電や紫電改という海軍の局地戦闘機を作っていたそうです。その後、父は隣の八鹿町の出身である母とお見合いで結婚しました」

戦争が終わって工業化が進み、農業が機械化されると牛市の需要も少しずつ減っていきました。1973年に但馬家畜市場ができてからは、柏屋に泊まる人も少なくなっていきました。

「養父自体も鯉の街として有名になってきたので、父が調理師の免許を持っていたこともあり、鯉料理の店を始めたんです」

柏屋の前の道路には、円山川の清流を引いた用水路が流れています。そこから水を引いて池を作り、鯉を飼うことを「鯉の囲い飼い」と言います。用水路は今でもとても綺麗ですが、昔は持ち回りでお掃除をちゃんとしていたようです。

「そこで洗濯なんかもしていたんです。川の上に板を置いて、床机を乗せてみんなでお喋りしたり、交流の場になっていました」

柏屋周辺の用水路。今でもここから庭の池へ水が流れ込む

「鯉はそのままお出しすると泥くさいので、庭の隅に四角いプールを作りました。そこに井戸水を入れて、数日鯉を泳がせてから調理するんです。隣の流しの上に大きなまな板を置いて、そこで鯉料理を作っていました。
だから柏屋には、用水路からそのまま水を引いていた表の池と、庭の池、それから臭みを取るプールと、池が3つあったんです」

1980年代くらいには旅行会社のツアーが盛んになってきて、城崎や出石に泊まるツアーのお昼ご飯に鯉料理をいただく店として繁盛していきました。

当時の簡単なレシピが残っているので、ご紹介しますね。

①鯉のあらい
薄く削いだ鯉の身を、生姜醤油でいただきます。
②鯉こく
鯉の頭でとった出汁に味噌と切り身を入れて、山椒の葉を散らします。
③うろこの唐揚げ
大きな鯉の鱗を1枚ずつ揚げたものに少々塩を振っていただきます。
④酢の物
鯉のあらいを甘酢に漬け込んだものに、きゅうりと紅ショウガを添えて。
⑤卵の酢の物
卵を一口大に切り、茹でたものに酢味噌をつけます。
⑥フライ
鯉の身に塩胡椒を振って小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて揚げます。
⑦丸揚げ
1匹まるまる揚げて、中華風の甘辛いタレをかけます。
⑧鯉すき
炭の上に鍋を置いて水炊きし、最後にご飯を入れてお雑炊に。

鯉のあらい

「これらの鯉料理に加えて、母が作った白菜のお漬物が人気でした。お米も、田んぼで取れたものっだったんですよ」

コース料理を出すのにふさわしく、景観もなかなかのものだったとか。

「庭の池には観賞用の鯉を放して、周囲に松の木や梅の木を植えた日本庭園にしていました。夏になると庭で花火をしたり、スイカを食べたりしたものです。玄関から中庭までは土間でつながっているので、玄関の扉を開けっぱなしにすると、中まで風が通って、夏でも冷房もいらないくらい涼しかったものです」

かつて鯉を育てていた池。今でも小さな魚を鑑賞できる

母屋は部屋が1階、2階とも4部屋あってそれが「田」の字になっているのですが、宿泊客の方には2階の部屋を仕切って寝てもらっていたとのこと。

「1階も田の字型に部屋が並んでいて、襖を取ると大広間になるんです。旅館を辞めたあと、家の奥にあった牛舎には卓球台を置いて、よくみんなで遊んでいました」

建物の基礎は建てた頃のままですが、これまでも増築したりトイレやお風呂を改装したり、生活スタイルによっていろいろと手を加えてきたのだとか。

玄関から見た母屋(改修前)

「昔はトイレやお風呂は母屋になくて、一度外に出なければいけなかったんです。中庭の池は、父が亡くなったあと、掃除がすごく大変だったので、埋めてしまいました」

ご両親が亡くなったあと、柏屋はずっと空き家になっていました。

「でも趣がある建物なので、よく聞く古民家カフェなどにして活用してもらえないかなと思っていたんです。よい方に買い取っていただき、改装されてとても綺麗に生まれ変わりました。でも外観がそのままなので、思い出がそのまま残っていて、とても嬉しく思っています」

料亭「柏屋」リノベーション後のtriven Fab

triven Fabの利用申し込みはこちら

triven Fabは公式サイトから利用予約が可能です。
お部屋の雰囲気や機材の設備の状況は下記ページよりご確認ください。