
ビジネスの種は身近なところにある。地元・愛媛にUターンしたフローリストが切り開く新たなお花のビジネス
アドリブワークスでは、アイデア段階から挑戦できるスタートアップスタジオ「norosi」を運営しています。今回は、アドリブワークスが愛媛県より事業を受託し実施された、愛媛県内発のスタートアップの創出を目指すプログラム「NEXTスタートアップえひめ」でファイナリストに選ばれた起業家のストーリーを紹介します!
プロフィール
能登 渓
MADO flower代表。松山市出身。アパレルブランドISSEYMIYAKEに就職、人々の生活を豊かにするための経験を積みながらフローリストとして修業。人生に残るシーンを彩るブライダル装花などの仕事を通して花で人の思いを伝える仕事をしてきた。2024年夏、松山に戻り花屋として起業。幼い頃から仲良しでずっとそばにいた祖母が認知症になったことをきっかけに、花を通じた認知症の予防・改善に取り組んでいる。
能登さんは愛媛ご出身とのことですが、これまでのキャリアをお聞かせください。
能登さん:高校まで松山で過ごし、大学進学を機に関西へ移りました。大学では学芸員の資格を取得するなど、アートに関わる道を模索する中で、ISSEY MIYAKEというアパレルブランドに就職しました。母体となる三宅一生デザイン事務所が美術館を運営していることもあり、アートに通じる部分があると感じたんです。
大学卒業後、販売員として約5年間勤務。モノを通して日常に彩りを届ける仕事にやりがいを感じながら働いていました。
お客様の気持ちをより汲み取った接客を磨くうちに、もっとお客様の深いところにかかわりたい、人生に深くかかわる仕事がしたいと思うように。また、もともと作り手への憧れもあり、人生の特別な瞬間を演出するブライダル現場でのフローリストとして修業しました。
能登さんは30歳のタイミングでUターンされたそうですね。
能登さん:そうなんです。大学進学のために関西へ出ましたが、もともと地元が好きだったので、30歳までには愛媛に帰るという目標を持ちながらキャリアを積んできました。
フローリストという職業を選んだのも、「手に職があれば地元でも好きなことを仕事にできそう」という考えがあったからです。
Uターン後も引き続きお花に関わる仕事をしたいと思っていたのですが、実際に愛媛に戻ってみると、自分のスキルを100%活かせる職場を探すのが難しいことが分かりました。
そういった背景もあり「まずは自分で色々やってみよう」という気持ちで、2024年の6月に開業届を提出。とはいえ、最初から具体的なビジネスのイメージがあったわけではなく、何から始めようか迷っている状態でのスタートでした。
愛媛県×norosiプログラム「NEXTスタートアップえひめ」に応募されたのもその時期だそうですね。
能登さん:はい。開業から1ヶ月ほど経った頃、商工会へ話を聞きに行ったタイミングで「NEXTスタートアップえひめ」を紹介してもらいました。
NEXTスタートアップえひめとは
株式会社アドリブワークスと愛媛県の協働プロジェクトとして、愛媛県の創業・スタートアップ支援策「愛媛グローカル・フロンティア・プログラム」(EGFプログラム)の一環として行われるスタートアップ育成プログラム。
norosiが提供する起業家支援サービスをカスタマイズし、短期間で事業アイデアのブラッシュアップから事業計画作成・ピッチの特訓・協業パートナーの獲得までを一貫支援する。
能登さん:説明会では「ビジネスのゴールは自分に近いところではなく、今いる地域や社会が抱える課題の解決など、できるだけ遠いところに置いた方がいい」という話を聞きました。
それまではお花業界が抱える課題ばかりを考えていたのですが、そこから「花を通じて社会問題をどう解決するか」と視点を変えてビジネスを作りたいと思ったとき、プログラムへの参加を決めました。
プログラムを受講して、特に印象に残ったことはありますか?
能登さん:自分のビジネスを言葉にする大切さを学びました。特に「trivenAi」を活用してアイデアを整理し、それを1on1のミーティングで実際に自分の言葉にしながら形にしていくプロセスが有意義でしたね。
最初は「花を通じて人を癒し、日常を彩りたい」「日常的に花を購入する文化を広めたい」という漠然とした思いを書き出していましたが、コーディネーターの方に「園芸療法」というキーワードを教えてもらったことをきっかけに今のアイデアに辿り着き、そこから発想を広げることができました。
園芸療法とは
植物を育てることや植物と関わることで、心身や社会生活の健康を改善することを目的とした療法。草花や野菜などの園芸植物や、自然とのかかわりを通じて五感を刺激するとともに、周囲とのコミュニケーションが生まれ、ストレスの軽減や認知機能の維持・向上が期待できる。

trivenAiによるビジネスアイデア磨き上げのイメージ
能登さん:また、コーディネーターの方に自由に相談ができる「フライデーアジェンダ」もよく活用しました。私は販促用のチラシについて、デザインや写真のアドバイスをいただき、今もそのチラシを活用しています。
最初は「園芸療法を軸に、花を通じて家族との心のつながりを作る」というアイデアに確信が持てず、不安もありました。そこで、園芸療法士の資格をもつ研究者の先生へコンタクトを取り、疑問をぶつけてみたんです。
専門家の方を含めて、色々な人と話すうちに、ビジネスの軸が明確になり、協力者も増えていきました。
能登さんが手がける「MADOflower」の園芸療法について、教えてください。
能登さん:「MADO flower」では、園芸療法を取り入れた認知症介護向けの花の定期配送サービスを開発しています。私の祖母が認知症になったことがきっかけで生まれたサービスで、花が持つ力で介護現場の課題を解決するものになります。
園芸療法という分野では、植物を育てたり触れたりすることで、心と体に良い影響を与えることが学術的に証明されています。たとえば園芸療法によって、被災した方のストレス緩和や、高齢者の自発的行動を促す効果があることがわかっています。
「MADO flower」でも、花を活用して認知症の方やその家族にどのような影響があるかを検証した結果、花に触れることで表情が明るくなり、家族との会話が増えることがわかりました。
修業時代に培ってきた花の仕入れ力を活かし、生産者の想いとともに季節の草花を届けることで、家族との対話の機会や花を通じたよりよい気づきを提供できればと思います。
認知症は誰にでも起こり得ることですが、いざ向き合うことになると、家族も突然の変化に戸惑うことが多いです。そんな中で園芸療法という手法が広がれば、花を通じて認知症の方やその家族に寄り添うことができるかもしれない。
このサービスを通じて、園芸療法の考え方をもっと多くの人に知ってもらえたら嬉しいですね。
起業前と今とで、働き方や考え方に変化はありましたか?
能登さん:すごく変わりましたね。起業する前は「花に関わる仕事がしたい」という漠然とした気持ちでしたが、今は明確なビジネスの軸ができたことで、迷わずに進めるようになりました。
また最終審査会のファイナリストとしてプレゼンさせていただいたことで、個人のお花の仕事自体も増えました。まだまだ考えなければならない課題は多いですが、自分のペースでやりたいことを形にする環境が作れたことが、一番の変化です。
これから起業を考えている人に向けてメッセージをお願いします!
能登さん:何かやりたいことがあっても、最初は方向性が見えなくて悩むことが多いですよね。でも、自分の中には必ず「軸」があると思うんです。
私の場合、「モノ、特に花を通して日常に彩りを届ける」というのが根底にあり、そこから自分の家族の状況と結びついてビジネスが生まれました。
起業する前は、ビジネスになりそうなアイデアを外へ探しがちですが、まずは自分の周りで起こっていることに目を向けてみてください。
そのときは遠回りに感じる試行錯誤も、結果的に自分のビジネスを確立する糧になります。まずは自分が普段考えている思いを書き出すことから始めてみるのがおすすめです。
アドリブワークスでは起業の志を持つ個人の方に対して、再現性高く事業開発を進められるプログラムを提供しています。プログラムの利用を検討する方は、下記からご連絡ください。
▶︎個人で起業に挑戦したい方はこちら:スタートアップスタジオnorosi