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【オーベルジュ藤本・中村 唯衣那】一流漁師とトップシェフが贈る「ローカル水産ガストロノミー」

アドリブワークスでは、シード期”未満”に特化したスタートアップスタジオ「norosi」を運営しています。今回は、norosiと愛媛県が協働で行った「愛媛県内発」のスタートアップの創出を目指したプログラム「NEXTスタートアップえひめ」でファイナリストに選ばれた起業家のストーリーを紹介します!

プロフィール

中村 唯衣那

山口県出身、東京外国語大学卒業。特許翻訳者。家族の転勤で2016年から6年間伯方島で暮らす。そこでトップ漁師本純一氏と出会い、丁寧に処理された魚の美味しさに感動するとともに、地域社会や漁業を取り巻く状況の悪化に危機感を抱き、問題解決に貢献したいと思うように。

▶︎コーポレートサイト:オーベルジュ藤本

しまなみの魚介×一流漁師×トップシェフによる持続可能な美食ビジネス


ーー今取り組まれているプロジェクトの内容を教えてください。

中村さん:愛媛県のしまなみ地域で獲れる、超高鮮度だからこそ味わえる多種多様な魚介を使った美食ビジネスを展開しています。

しまなみ地域には味が良いにもかかわらず、鮮度落ちの早さや流通の問題でなかなか注目を浴びていない魚介類がたくさんあります。また、食べ慣れた魚介でも獲れたてのものにはまったく別の感動的な味わいがあります。

そこで魚の目利きや処理技術に強みを持つ漁師・藤本純一と、日本トップレベルのシェフたちがタッグを組み、しまなみ地域でしか味わえないオンリーワンの美食体験「ローカル水産ガストロノミー」を提案したいと考えています。

ーーしまなみ地域の魅力の一つである魚介類にスポットライトを当てたプロジェクトなのですね。このビジネスを構想したきっかけは何だったのでしょうか?

中村さん:2016年、家族の転勤で愛媛県・伯方島に暮らし始めたのがきっかけです。伯方島にある「あか吉」というお寿司屋さんで食べたお寿司が、びっくりするくらい美味しくて。

これはただ事ではないと感動しながら「どうしてこんなに美味しいのか」と赤吉の店主・赤瀬さんに尋ねたところ「藤本が獲って、高い技術で締めた、新鮮な魚だから」と返ってきたんです。

そこから藤本と顔を合わせ、家族ぐるみでのお付き合いをさせてもらうように。交流の中で藤本が持つ漁業技術の卓越性や、ここでしか食べられない生きた味わいにさらに惚れ込んでいった一方、現在の美食業界が持続可能なものになっていないという課題も見えてきました。

ーー美食業界が抱える課題とは?

中村さん:アカムツ(のどぐろ)や金目鯛・アワビなどといった人気の高級食材が過剰漁獲の影響もあり減っていることです。

本来、サバやイワシ・アジといった大衆魚や、市場になかなか出回らない魚たちも、これらの高級魚に劣らないポテンシャルを秘めています。しかしこれらの食材を美味しくいただくには、目利きや処理の技術、鮮度が落ちる前に提供するといった工夫が必要です。そうした制約条件をクリアできないために、一部の高級食材に需要が集中してしまっているという課題がありました。

そこで全国のトップシェフがここ伯方島に足を運び、一流の漁師である藤本がその日に水揚げした魚介を使ったコース料理を作る。従来の高級食材に過度に依存しない形で満足度の高い美食体験を提供することで、食の楽しみを持続可能なものにできると考えています。

ーーしまなみの漁師・藤本さんはどんな方なのでしょうか?

中村さん:藤本は愛媛県今治市・大島の漁師一家の4代目。質の高い個体を見分ける目利きと、鮮度と美味しさを保つ「神経締め」をはじめとする技術で全国の有名シェフから絶大な信頼を獲得する漁師で、2021年にはレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2021」のテロワール賞を受賞しています。

藤本はよく「獲った魚を東京へたくさん送っているけれど、自分が一番美味しいと思っているのは、ここで食べる獲りたて・締めたての魚なんだ」と言います。都心部にいる最高峰のシェフを呼んで、この島だから扱える最高の食材たちを料理してもらいたい。そうした藤本の想いが実れば、美食の未来が明るくなるだけではなく、地域の活性化にもつながるのではないかと思ったのです。

NEXTスタートアップえひめの参加で「いつかこんなことができたら」を形にできた


ーー中村さんがこのプロジェクトに踏み切った理由も教えてください。

中村さん:結婚を機にフリーになり、特許翻訳者として活動していました。夫が魚の研究者をしていたことも、魚に興味を持つようになったきっかけの一つかもしれません。

伯方島に来たのは転勤が理由でしたが、6年ほど過ごしてきて今では「終の住処は伯方島に」と考えているくらい大好きな地域。そしていずれ伯方島に戻ってくるのであれば、何かこの地域のためになることがしたいと思ったのが大きな理由です。

ーープロジェクトでは中村さんはどんな役割を担っていますか?

中村さん:私と藤本、そして藤本が処理する魚に惚れ込んだシェフたちとチームを組んで事業に取り組んでいます。私は事業を支える裏方として、ビジネス面のコミュニケーションや地域とのリレーション構築を担当しています。

ーー2023年の夏に行われた起業支援プログラム「NEXTスタートアップえひめ」に参加された経緯も教えてください。

中村さん:以前から藤本やシェフと「いつかこんな取り組みができたら」と話していたものの、どうやって形にしたら良いのかわからない状態でした。そんなときに「NEXTスタートアップえひめ」の存在を知り、とりあえず申し込んでみようと思ったのです。

プログラムではビジネスモデルキャンバスの作り方やピッチでの伝え方など、一から根気強く教えていただきました。

実は、プログラムを進める中でビジネスプランが形になっていったものの「本当にこんなことできるのかな?」と常にどこか不安な気持ちを抱えていました。

しかし色々な方から「きっとできる」「期待しているよ」という励ましの声があったおかげで大事なときに踏ん張れたし、その結果として最終的にビジネスコンテストで優秀賞をいただくことができたのだと思います。

地元事業者と連携しながら、しまなみ地域を世界に誇れる美食の街へ

ーービジネスプランの実現に向けて、現在はどんなことに取り組んでいますか?

中村さん:2024年4月、第一歩目の取り組みとして「あか吉」を間借りした2日限定のレストラン「虹吉」の営業を行いました。県内外からご応募いただいたお客様のほか、今後一緒に取り組みを行う地元企業や関係者の方も招待して、西麻布の有名レストラン「蒼」の峯村シェフによるコース料理10品を提供しました。

一回目ながら応募倍率は約30倍と反響も大きく、料理のクオリティもお客様の反応も想像以上で、明確な手応えを感じられた2日間でした。第二回の営業は7月下旬に行う予定です。

今後は「虹吉」の営業を重ねることで認知度を高めつつ、数年以内に国内外の旅行客を対象とした最高級オーベルジュ(宿泊できるレストラン)を伯方島・大島に開業予定です。

さらにオーベルジュ事業と並行して伯方島まちづくり会社と協力し、地域の人から観光客まで楽しめる複合施設の建設プロジェクトを計画しています。島民や事業者の方たちとともに、どうしたら一緒に島を盛り上げることができるか、様々な人にヒアリングしながらより良い形を模索中です。

スペインには「サン・セバスチャン」という、世界中のグルメが訪れる美食の街があります。サン・セバスチャンのようにしまなみを様々な価格帯の美食が楽しめる地域にして、地元の人たちも日々美味しいものを気軽に楽しめるようなまちづくりができれば理想です。

事業を通じてしまなみ地域を誇りに思える人を増やしたい

ーー地元の食材を使った美食体験を提供するだけではなく「どうしたらしまなみ地域のためになるか」を考えながら行動されている姿がとても印象的です。

中村さん:伯方島やしまなみ地域には美しい瀬戸内海の風景があり、他では味わえない食材があり、藤本や「赤吉」の赤瀬さんのようにその食材の美味しさを最大限に引き出す職人がいます。

「伯方の塩」という商品もあるように、古くから塩づくりをしていたことでも有名です。さらに中世は日本最大の海賊「村上海賊」の拠点となった地域で、当時の歴史を感じさせる城跡や文化が今でも残っています。

そんな魅力がたくさん詰まっている地域なのに、島に住む人たちがその魅力に気づいていなかったり、知っていてもその魅力にアクセスできなかったりするのが「もったいないな」と感じるときがあります。

だからこそ私たちの事業を通じて地域にある魅力をプロデュースし、その魅力に価値を見出してくれる観光客をほどよく呼び込むことで、ここに住んでいることを誇りに思う島民の方が少しでも増えればと考えています。

そのためにもこのオーベルジュ事業もまちづくりのプロジェクトも、「島にないものを持ち込む」という発想ではなく、今ある島の魅力を紡いで再構築していくようなイメージで取り組んでいきたいですね。

ーー最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします!

中村さん:新しい事業を興そうとするときは必ず不安な気持ちになるもの。「NEXTスタートアップえひめ」ではアドリブワークスのコーディネーターの方が不安な気持ちを受け止めてくれた上で、あたたかいサポートをいただきました。

もし何かやりたいことがある方は、そういったモヤモヤした不安をぶつける壁打ち相手を探してみると、安心して挑戦のアクセルを踏むことができるかもしれません。

内容は取材当時のものです。現在のサービス名・事業内容・活動状況は同社のホームページ・SNSなどをご参照ください。

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