【カイリキプロジェクト・重松 隆正】「すてる」があたりまえの貝殻を循環資源に!農業と環境に新しい価値を届けたい
アドリブワークスでは、シード期”未満”に特化したスタートアップスタジオ「norosi」を運営しています。今回は、norosiと愛媛県が協働で行った「愛媛県内発」のスタートアップの創出を目指したプログラム「NEXTスタートアップえひめ」でファイナリストに選ばれた起業家のストーリーを紹介します!
プロフィール
重松 隆正
明治大学理工学部応用化学科卒業後、プライム市場上場のディスクロージャー支援企業に勤め、複数の上場企業のIR関連業務に携わる。2018年より、事業承継のために愛媛県の新光ビニール株式会社にUターン。甲種危険物取扱資格取得者。学生時代に知った貝の研究経験から、廃棄貝問題に強い関心を抱くように。
プロジェクト▶︎廃棄される貝殻から液体肥料を作成し、農作物の生産に繋げたい。
廃棄される貝殻から液体肥料を作る「カイリキプロジェクト」
ーー今取り組まれているプロジェクトの内容を教えてください。
重松さん:愛媛県は真珠養殖が盛んな地域ですが、その一方で推定約280tものアコヤ貝の殻の廃棄があります。
そこで廃棄される貝殻から液体肥料を開発、この液体肥料を活用した農作物を栽培・販売する「CaiLIQUI(カイリキ)」プロジェクトを展開したいと考えています。
ーービジネスアイデアはどのように見つけたのでしょうか?
重松さん:大学時代にしていた、自然素材を活用した汚染水処理の研究がきっかけです。
私は稲のもみ殻を化学的に処理することで重金属を吸着し、水をきれいにする研究をしていました。
当たり前に捨てられている廃棄物も、使い方を変えれば様々な用途に使えると知り、「自然由来の素材を使って何か作ってみたい」と考えていました。
また当時の関連テーマとして貝殻の活用もあったので、「いつか貝殻でも何かやってみたいな」と考えていたのもきっかけの一つです。
昨年頃に「卵の殻から液体肥料を作っている会社がある」ということをたまたま知って、「卵ができるなら、主成分が似ている貝殻でもできるかも」と思いついたんです。
いざ試してみるとこれが意外とうまくいって、製品化してみたいと思うようになりました。
ーー大学時代から温め続けてきたアイデアだったのですね。一方、大学卒業後は研究・開発職ではなく、首都圏の営業職に就職したと伺いました。どんなことを考えてファーストキャリアを選んだのでしょうか?
重松さん:実家では包装資材の卸売りをやっているのですが、将来的に家業を継ぐことになったときのことを考えて、様々な会社の経営を学べる仕事にしました。
営業職であれば職位が上の方、時には社長といった立場の人とも深く話ができるので、そういった環境下で自分を鍛えられればと思いました。
ーーその後家業を継がれるために愛媛へUターンされたんですね。Uターン転職も勇気のいる意思決定だったかと思いますが、いつ頃から決意を固めたのでしょうか?
重松さん:一番は父から「いつ帰ってくるの?」と言われたことがきっかけです。
就職したての頃は「すぐに帰ってこなくてもいい」と言われていたのですが、気がつくと徐々にプレッシャーを感じていきまして……(笑)。
ーーなるほど、リアルな理由ですね。現在は包装資材の卸売と、カイリキプロジェクトを並行して進めている状況なのでしょうか?
重松さん:そうですね。平日は本業の業務にほとんどの時間を割いているので、カイリキプロジェクトは休日のプライベートの時間を使ってコツコツと取り組んでいます。
行動しないとビジネスは始まらない!頭の中のアイデアを形にしよう
ーー「一人で液体肥料の開発」と聞くとハードルが高そうに聞こえますが、どのように試作品を作っているのでしょう?
重松さん:家の庭を使って試作品作りをしています。
「卵の殻 液体肥料」と検索すると作り方が出てくるのでそれを参考にしつつ、反応性を高めるために貝殻を火にかけてみたり、細かく砕いたり、貝殻を溶かす酸の濃度を調整してみたりなど試行錯誤中です。
ーー実験みたいでワクワクしますね……! 現在の事業の状況についても教えてください。
重松さん:現在は試作品が完成して、この春から今治市の伯方島で栽培されているライム畑で実証実験をさせてもらう段階です。
理論上は肥料を使うことで成長が促進されたり、病気やカビの影響を受けにくくなったりする効果があるので、実際にこれらの効果が得られるかどうかを確かめられればと思っています。
実証実験の結果、製品として問題がないと判断できれば、どんな人・会社にニーズがあるか販路開拓の調査をする段階に入る予定です。
ーーちなみに、重松さんは「NEXTスタートアップえひめ」の採択者として半年間の起業支援プログラムを受けられましたが、参加しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
重松さん:Facebookで偶然広告を見たからです。
実は、カイリキプロジェクトは元から具体的な構想があったわけではなく、「NEXTスタートアップえひめ」の広告を見たのがきっかけで生まれました。
「面白そうだから応募してみたい」「自分がやるとしたら貝殻のアイデアで挑戦してみよう」という流れで、今のカイリキプロジェクトが形になったんです。
「いつかはやりたい」と頭の中で思い描いても、実際に動かなければ事業はスタートしません。
「NEXTスタートアップえひめ」のプログラムでは「いつまでに何をするべきか」という明確なゴールと締切が設定されていたので、適度なプレッシャーを感じながらプロジェクトを前に進めることができました。
またビジネスコンテストやDEMODAYではピッチをさせてもらい、人前で自分の考えを発信する貴重な機会をいただけたのも非常に学びになりましたね。
周りの意見に振り回されず、やりたいことをやろう
ーー本業を続けながら新しいプロジェクトを進めるのは大変でしょうか?
重松さん:100%完璧に両立できているとは言えません。「カイリキプロジェクトを進めたいけれど、本業が忙しくなかなか手がつけられない」ということもよくあります。
でも専業ではないからこそ、プロジェクトを俯瞰視点で冷静に見られるというメリットもあります。
本業もカイリキプロジェクトも、一歩一歩堅実に進められれば理想です。
一方で、家族や周りからの理解を得られればもう少しうまく調整できることも増えるかなと思うので、そこは今後の課題ですね。
ーー周りからの率直な反応はいかがでしょうか?
重松さん:本業とは関わりのない領域をやっていることもあり、基本的に無関心な人が多いです。売上がない状況で「理解してほしい」と言うのも難しいので、事業として成立するところまで持っていかなければいけない。まさにここは「結果が全て」だなと思います。
ただ、「NEXTスタートアップえひめ」のプログラムを走り抜いたことで、「やりたいことに尻込みしてはいけない」と改めて実感しました。
なかなか理解は得られずとも、周りの意見に振り回されず、自分がやりたいことをやろうと思えるようになりました。そこは自分の中でも前進したなと思います。
ーー逆境の中でも挑戦を続ける姿勢、素晴らしいですね……! 応援しています!
一歩踏み出すための小さなきっかけを見逃さないように
ーーカイリキプロジェクトの今後のビジョンを教えてください。
重松さん:現在はアコヤガイの貝殻だけを使用していますが、他の貝殻でも同じ様な肥料が作れるかを検証したいです。
例えば牡蠣の殻やホタテの殻などから肥料が製造できれば、その地域の飲食店から貝殻を回収して、私たちが食べる野菜や果物の肥料として展開できる可能性があります。
そうした肥料で生産された野菜を再び飲食店に販売すれば、それはまさに循環型ビジネスと言えるのではないでしょうか。
全国、そして世界でそういった仕組みを広めていきたいですね。
ーー最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします!
重松さん:自分が大層なことを語れる立場ではありませんが……(笑)。
スタートアップを始めるには、小さなきっかけを見逃さないことが重要だと思います。
自分の考えを内に留めておくだけでは何も生まれません。私にとっては「NEXTスタートアップえひめ」がそうでしたし、norosiのようなスタートアップスタジオに参加することも一つのきっかけになるはずです。
自分にとってのきっかけを取りこぼさないためにも、広い視野と興味のアンテナを持って世界を見てみてください。
内容は取材当時のものです。現在のサービス名・事業内容・活動状況は同社のホームページ・SNSなどをご参照ください。