【いねのこ・大越雄太】お米を繊維に加工!?「いねのこ®️」で日本の農業課題を解決したい!
アドリブワークスでは、シード期”未満”に特化したスタートアップスタジオ「NOROSI」を運営しています。今回は、NOROSIに所属するスタートアップの起業ストーリーをご紹介します!
プロフィール
大越 雄太
日本大学大学院 工学研究科物質科学 工学専攻博士前期課程、Fundamentals of engineering福島県郡山市にて活動。 日本のコメの供給過剰の問題に付随して、耕作放棄地の増加、コメの価格の下落、転作に関しての補助金依存体質などを問題視。 郡山市のスモールスタート支援事業2019、2020、2021やこおりやまSDGsアクセラレータープログラムに採択。
担当コーディネーター
栗山依子
和歌山出身。学生時代は長崎で過ごし、東京・大阪で広告業界に約12年、営業&プロデューサーとして商品開発、店頭販売促進に従事。出産・育児休暇中は愛媛で農業大学校に通い、伯方島で無農薬ライム栽培や、今治産の食材を使った無添加補給食の開発、愛媛県老舗和菓子屋「薄墨羊羹」さんの乳幼児向け和菓子「おやおやようかん」のブランド開発を担当。松山ブランド新製品nextone【金賞】松山市長賞を受賞。現在はNOROSI・trivenコーディネーターを務める。
▶︎プロジェクトページ:
稲を繊維植物として最適化していくと、何個か社会課題を解決できる
不要になった種籾を集める仕組みを作りたい!
お米の新たな消費方法を確立したい
ーー大越さんが「いねのこ®️」プロジェクトを始めたきっかけを教えていただけますか?
大越さん:近年日本では食の欧米化が進み、どんどんお米が食べられなくなってきています。また実家が稲作農家なのですが、震災により福島県内の農作物が風評被害を受けたことで、「お米が売れない」という課題に直面するようになりました。
お米の価格の安さや農業に携わる人の減少、畑へ転作するのにかかる労力など、日本の稲作は様々な問題を抱えています。
そこでお米を食用としてだけではなく「稲の苗の根っこを加工し、和紙や衣服用の繊維として活用する」という、新たな消費方法を考えるようになったのが、いねのこプロジェクトの始まりです。
日本は繊維製品のほとんどを輸入に頼っているというアンバランスな状況です。「いねのこ®️」を活用したメイドインジャパンの繊維を広め、お米の新たな活用先を確保する。
そうすることで、日本の稲作農家が抱える課題を解消できるとともに、万が一貿易ができなくなった場合でも国産の衣服を確保できるようになると考えています。
ーー日本の農業や国レベルでの問題意識から、このプロジェクトをスタートさせているんですね。大越さんのとても視野が広くて驚きました。
栗山さん:近くで見ていても、大越さんは「自分のビジネスを立ち上げたい」というよりも、現状の市場やシステムに対する解決策を思いついて「自分が成し遂げなければ」という使命感で動いている感じがしますね。
ーー「いねのこ®️」の現在の事業フェーズについて教えてください。
大越さん:和紙を使って織りあげた「和紙デニム」を製作している企業と協業して、稲を使った和紙デニムを作ろうとしているところです。
ただ、「いねのこ®️」からできた和紙デニムを試作するのに1ロット70kg分という大量の根っこが必要で、今は試作のための苗を育てています。
ーー「70kg分の苗の根っこ」とは、具体的にどのくらいの量なのでしょうか?
大越さん:70kg分の苗の根っこを集めるには、700kgの種もみを植える必要があります。お米の1人当たりの年間消費量は約50kgと言われているので、14人が1年間で食べるお米の量をイメージしてもらえると良さそうです。
ーー試作をするだけでも、途方もない量の苗が必要なんですね……!
栗山さん:そうなんです! なので早く試作段階に移るためにも、現在は福島県郡山市と兵庫県養父市、2拠点で稲を栽培しています。
ゆくゆくは安定供給できるような仕組みを整備したいですが、今のところは自分たちのリソースだけで地道に根っこを育てたり、根っこの繊維強化や発育促進の研究をしているところです。
いねのこ®️が描く世界を、自分も一緒に見てみたい
ーーいねのこ®️プロジェクトは発起人の大越さんと、NOROSIのコーディネーターも務める栗山さんの2人チームで運営されています。栗山さんがいねのこ®️プロジェクトにジョインされたきっかけを教えてください。
栗山さん:最初はNOROSIのコーディネーターとして関わっていました。「日本人にとって身近な『お米』を繊維にする」という大越さんのアイデアは独自性があって、また描くビジョンも壮大。すごく面白そうだと感じたのがきっかけです。
一方でビジョンが大きいからこそ、それを1人で実現するのは難しいので、「力になりたい!」と思いました。大越さんが描く世界を、自分も一緒に見てみたいと思ったんです。
大越さん:原料を提供してくれる農家さん、苗を加工してくれる製造業者さんなど、複数の業界をまたいで協力者を募らないといけないビジネスだと思います。
一方で自分は折衝が得意ではないので、栗山さんの存在はとても大きいです。
栗山さん:まだ法人化していないタイミングだと、企業へ提案しても「個人やっているレベルの話でしょう?」と門前払いされてしまうことも多いんです。
だからこそ「きちんとチームを組成して動いているんだ」という見せ方を整えることも、シード期のスタートアップの大切なポイントだと思っています。
そんな中でも大越さんは郡山市のアクセラレータープログラムや、農林水産省が主催するビジネスコンテストにも挑戦しており、1人でもなんとか突破しようと動いている姿勢が素晴らしいなと思います。
家族からの理解を得るには、「外からの評価」も大切
ーー大越さんのご実家ではお米を作っていると伺いました。ご実家のお仕事ととても密接に関わるビジネスだと思いますが、起業されてから親御さんの反応はいかがでしょうか?
大越さん:実は、親としては「安定した仕事についてもらいたい」と思っているようで、うっすら反対されていました(笑)。
ーーそうだったのですね。大越さんのご経験から、起業に反対する家族を説得するためにやってよかったことはありますか?
大越さん:色々なビジネスコンテストやプログラムに出場したのはよかったなと思います。
家族は持っている知識や価値観、見えている世界に違いがあるからこそ反対していると思うので、「外部から評価されている」という実績を作っておくのはおすすめです。
栗山さん:「ゆくゆくは、このプロジェクトにお金を出してくれる人もいるんですよ」という将来的な展望を見せられると、ご家族としても安心ですよね。
ーー「いねのこ®️」プロジェクトをやる中で大変なところは何ですか?
栗山さん:なんといっても苗の量産が大変です! 売上もない中でいきなり農業機械を入れるのはハードルが高いので、まずは手作業で稲を栽培し、必死で苗を集めています。
一方で苗は生き物なので、気温や周りの環境に大きく左右されます。この前は暑さが原因で発育不良になってしまって……。
こういった自然を相手にする難しさも含めて、いねのこプロジェクトの面白さであり、ハードなポイントです。
大越さん:これからいねのこ®️プロジェクトを大きくするために、どんどん協力者を募らないといけないのが大変なポイントだと思います。
例えば今後、稲の栽培を効率化させることを考えるとITに強い協力会社さんとの提携が必要です。また日本の農業の仕組みそのものを変えるには、行政との連携も視野に入ります。
このプロジェクトをどれだけ多くの人に知ってもらい、多くの人を巻き込めるかは今後の課題ですね。
稲の遠隔栽培を実現し、将来の社会基盤となるシステムを作りたい
ーーいねのこ®️プロジェクトの今後の展望をお願いします。
大越さん:まずは「稲の根っこを加工して繊維にし、それを元に新たな製品を製造・販売する」といういねのこ®️プロジェクトの仕組みを確立したいです。
そのサイクルが広まれば、お米の付加価値が高まり、今以上に農地を保全することにもつながると思います。
また今実験的に取り組んでいるのが、稲の遠隔栽培です。誰でも画面越しに栽培できるシステムを開発することで、社会的弱者の方や、理由があって働けない人でも簡単な操作で繊維を栽培できるようにしたいなと考えています。
最終的にはベーシックインカムのような、社会の基盤になるシステムになれば理想です。
栗山さん:早く苗の根っこを量産して、「いねのこ®️発」の製品を形にしたいですね。そこから仕組みをしっかり作ることではじめて、ビジネスコンテストやベンチャーキャピタルからの出資を含めた資金調達活動ができると思っています。
量産のための機材や場所への投資、「いねのこ®️」のブランディングなど、やりたいことはまだまだあるので、その足がかりとなる商品を開発することが目下の目標です。
ーー最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします!
大越さん:起業は孤独なことも多いと思いますが、自分がやれることをきちんとやっていけば、社会は変えられると思います。一緒に頑張っていきましょう!
栗山さん:「1人で悶々と考えて、なかなか踏み出せない」という起業志望者も多い中で、ただ大きなビジョンを掲げるだけではなく、その実現に向かって一歩ずつでも真摯に歩みを進めているのが大越さんのすごいところだと思います。
「自分の手で何か製品を手作りしてみる」「企画書を書いてみる」など、どんなに小さくてもいいので一歩踏み出すという気持ちを持って、まずは行動してみてください!
内容は取材当時のものです。現在のサービス名・事業内容・活動状況は同社のホームページ・SNSなどをご参照ください。