「今挑戦しなかったら後悔すると思った」。愛犬と動物、地球環境に優しい”ヴィーガンドッグフード”を届ける起業家の想い
愛犬の健康、地球環境、そして動物の幸せを守りたい。
肉食文化が引き起こす動物倫理の問題や環境への悪影響を知りヴィーガンになった美甘さんは、そんな想いを胸に独学でペット栄養学を学び始め、現在は植物性原料100%で作られたヴィーガンドッグフードの開発に奮闘しています。
「今挑戦しなければ後悔する」という決意で起業した美甘さんに、これまでの起業の歩みを伺いました。
プロフィール
美甘 真由佳
大学からアメリカへ留学、監査法人、複数の外資系企業で経験を積む。コロナをきっかけに食料と健康・社会課題との繋がりを知り、ヴィーガン的なライフスタイルを取り入れるように。2024年9月、株式会社Liviveensを創業。ペット栄養管理士資格・プラントベースフードアドバイザー資格を取得、イギリスのヴィーガン獣医師による犬の栄養学コース修了。論文や専門家の発信する情報を常に取り入れ、ペット用ヴィーガンフードや動物倫理の理解に役立つ情報の発信を心掛けている。
株式会社Liviveens (リバイビーンズ) の事業内容を教えてください。
美甘さん:Liviveensは、100パーセント植物由来の原料を用いたドッグフードの開発に取り組む会社です。
会社名の由来は「Revive(蘇る)」「Lively(生き生き)」と、「Beans(豆類)」「Greens(植物)」といった言葉を掛け合わせた造語。
植物や豆を使ったドッグフードを通じて、犬の健康だけではなく、地球環境や他の動物にも優しい世界を実現したいという願いを込めた会社名となっています。
事業を始めた経緯は?
美甘さん:最初はソーシャルメディアやドキュメンタリーで、卵や肉の生産現場における動物福祉(アニマルウェルフェア)の問題を知ったことがきっかけでした。飼育されている動物たちの扱われ方を知ったときは衝撃的で、とても胸が痛みました。
その後、大量生産型の畜産業がおよぼす環境負荷や、野菜中心の食生活の健康効果を知り、ヴィーガンなライフスタイルに興味を持つように。徐々にヴィーガン食に移行する中で、「犬もヴィーガンになれるのだろうか?」と疑問を持ちました。
愛犬のピノは胃腸が弱く、良質そうなドッグフードでも吐いてしまったり、お腹を壊したりすることもしばしば。自分自身がヴィーガンの食事に切り替えて、その良さを実感したため、ふと「犬もヴィーガンになったら健康によいのかも」と思ったんです。
すると、海外ではすでにヴィーガンドッグフードが存在しており、犬にとっても健康効果が高いという研究結果があることが分かってきました。
美甘さん:独学で栄養学を学びながらヴィーガンフードを手作りして与えると、みるみる毛並みが良くなり、体調も安定するようになったんです。
ワンちゃんの健康にも、環境にも動物にも優しい。そんな三方よしを実現するヴィーガンドッグフードですが、日本ではほとんど作られていません。
そこで、「ヴィーガンドッグフード」という選択肢をもっと多くの人に知ってもらいたいと思い、Liviveensを立ち上げることにしました。
起業するにあたって不安はなかったですか?
美甘さん:正直なところ、長くファイナンス領域で仕事をしており、営業やマーケティングの経験がなかったので、事業を始めることには不安もありました。
ただ、海外ではすでにヴィーガンやプラントベースフードは大きな市場となっており、今後日本にもその流れが来るはずです。そして、それを広める社会的な意義があると確信できたからこそ、起業に踏み切ることができました。
起業前は外資系企業で部長職を務めるなど仕事にやりがいを感じていた一方、どこかで「定年までこの仕事を続けてよいのか?」という違和感も持っていました。
そんな中で「ヴィーガンドッグフード」という、ライフワークとして取り組みたいと思えるテーマに出会い、会社を辞める不安よりも「今挑戦しなかったら後悔する」という気持ちが上回ったんです。
「LiviveDog フレッシュフード」のこだわりを教えてください。
美甘さん:植物性食品100%ながら、犬に必要な栄養バランスをしっかりと計算して作ったドッグフードである点がこだわりです。
主なタンパク源はお豆腐とレンズ豆。そこにサツマイモやニンジン、ブロッコリーといった野菜、ひまわりの種やカボチャの種などのシード類も盛り込んでいます。
保存料などは無添加、できるだけ有機・無農薬の原料を使うなど、食の安全性にも気を配っています。
美甘さん:「LiviveDog フレッシュフード」を実際に試したお客様からは「体に良さそうでいいね」「食いつきがよかった」とポジティブなフィードバックをいただくことが多いです。ほとんどのワンちゃんが喜んで食べてくれたのも、何より嬉しいポイントでした。
また「栄養バランスが心配」「好き嫌いが激しくてなかなか食べてくれない」など、愛犬の食事に悩む方が思いのほか多いことも分かって、ペット向けプラントベースフードのニーズを開拓できそうな感触も得られています。
美甘さん:当初はプラントベースフードという点で、「動物性タンパク質が入っていないことに対する疑問や抵抗感があるのでは」と心配していたのですが、意外にもネガティブな反応はほとんどありませんでした。
日本ではお豆腐などの植物性タンパク質に親しみがあるので、愛犬の健康を考える飼い主の方の多くは前向きに受け入れていただいている印象です。
起業してから心境や生活に変化はありましたか?
美甘さん:会社員時代のように時間の制約やプレッシャーがなく、本当に自分のやりたいことを突き詰められる環境なので、とても充実しています。
一方で、事業に関わるすべてのことを自分一人で決めなければならず、自分が動かなければ何も進まないという厳しさも感じています。自分が決めたことが正解かどうか不安になることもありますね。
自由度が高い代わりに、自分の意思決定がすべて自分に返ってくるという責任の重さを実感しているところです。
生活面では、以前は週5日オフィスへ出社しなければならず、愛犬と一緒に過ごす時間が限られていました。ペット預かりサービスを利用したこともありましたが、うちの子は他の犬や人が得意ではないので、預けるたびに心苦しい思いをしていました。
ですが今は、ほとんどの時間を一緒に過ごすことができています。愛犬にとってのストレスも減ったことは、起業して本当に良かったと感じる部分のひとつです。
今後の展望を教えてください。
美甘さん:今後はマーケティングの勉強を行うとともに、ヴィーガンやプラントベースに関心のあるカフェやワンちゃんフレンドリーなカフェとの関係性作りなど、販路開拓のアクションを行いたいと考えています。
現在は2種類のフレーバーのウェットドッグフードだけですが、ドライフードや手作り用のサプリメント・おやつなど、今後さらにラインナップを増やすべく取り組みを進めています。
まだまだ始まったばかりの小さな会社ですが、大切なワンちゃんと飼い主の方の幸せ、そして動物福祉・地球環境に貢献することを目指して活動を続けていきたいです。